人類が「内なる自己」を発見したのは、紀元前6世紀のことだといわれています。その時代、人類の歴史において、何か画期的なことが起きたと考えられます。

ユダヤの預言者たちと古代ギリシャの哲学者たちは、、「内的自己」の発見によって、人間心理について深く洞察するとともに、自己に属さないあらゆるものについての探求が始まります。自然だけではなく、自然を自然たらしめている原理とは何か、また自然を超えた超自然や神秘的なものについての問いが始まりました。

エニアグラムは人間の心が現代心理学や脳科学によって探求される以前の「人間とは何か?」の問いに答えを見出そうとした古代の賢人たちの知恵に通じるものがあります。イチャーゾからエニアグラムの9つの自我についての教えを受けたクラウディオ・ナランホは、エニアグラムを現代心理学や精神医学の言葉に焼き直し、20世紀後半のアメリカ人をはじめ、ヨーロッパから日本を含むアジアの人間にも強いインパクトを与えるシステムとして伝えました。

エニアグラム図に示される宇宙観・人間観は、とくに古代ギリシャの哲学者ピタゴラスやプラトン、新プラトン派のプロティイノスの思想やユダヤ教のカバラ(の生命の樹)との関連が指摘されています。

とくに宇宙(神)と人との関係や人間性そのものについての見方は、原始キリスト教やユダヤ教、イスラム教神秘主義のスーフィーの教えに通じるものがあります。さらに仏教や道教といった東洋的な思想とも相通じるものがあり、エニアグラムの知恵は、宗教や信仰の違いを超えて、世界中の人々の間で内面の自己成長のためのすぐれたツールとして、着目されるようになってきています。

エニアグラム図の円は全体を表し、宇宙・神・世界といった、それは唯一にして完全なるものの象徴です。円の内側にある正三角形は、完全なるものの三つの側面であると考えられます。キリスト教の父と子と聖霊の三位一体、いわゆる弁証法的プロセス、また東洋的な思想に見られる天地人という見方もできるでしょう。残りの3つのポイントを結ぶ線は、グルジェフによると、変化を示すものです。

このシンボル図形をどう見るかについていえば、円はすべての人を含む宇宙全体、ないしは神のごとき完全なるものであり、9つのポイントに位置するのは個々の人であり、宇宙のかなに存在するわたしたち自身であるといえます。内側の線はそれぞれが完全なものをめざして、スピリチュアルな成長と発展を遂げていく過程を示しているといえるでしょう。

また、円そのものがわたしたち自身を表し、円周状の各ポイントや円の中に示される線の結びつきは、個々人の内的宇宙を映し出していると見ることもできます。たんなるパーソナリティシステムとしてのエニアグラムを超えて、さらに言えば、円が完全さを示し、完全なる者であるとするならば、それを神と呼ぶか、神即自然か、それは人のよって立つ立場によって異なるかもしれませんが、内側の線はつねに神的なもの、すなわちより高き者へと向かっていく、その方向を指し示すものであり、また逆に神的なる者から遠ざかる、堕落の方向を示すものでもあります。

エニアグラムを現代的な自己啓発の道具としての枠に閉じ込めておきたい人には、こういった言葉遣いはお気に召さないかもしれませんが、たんなる性格理論としての理解に終われば、それこそエニアグラムの知恵は、宝の持ち腐れであり、たんなる性格理論としてとらえている限り、現代の人間主義の行き詰まりを超えていくことはできません。

20世紀にグルジェフによってよみがえったエニアグラムのもっとも重要な点は、宇宙や神、自然といった自己を超えた世界のなかに生きる人間存在そのものへの認識をうながすものであり、それは人間中心主義の終焉を示すとともに、大宇宙のなかに生かされている人類が、今後、いかに生きていくかの新たな選択を迫るものとなっているところにあります。